岡部倫子氏の研究に見る「感情労働と信頼の回復」

近年は、経営学において、感情の研究に関心が集まっています。現代の多くの企業はサービスを提供することを業務とし、サービス業の就業人口は増加しています。そして顧客にサービスを提供する従業員は、一般的に「感情労働」を行っています。感情労働は、社会学者のホックシールドが、1983年に出版した著書『管理される心: 感情が商品となるとき』により広く知られるようになりました。感情労働とは、肉体労働や頭脳労働とは異なり、従業員が顧客に対応する際に、会社が規制する感情規制に従い、自分の感情をコントロールして、適切な対応をする労働形態を指します。例えば、航空会社の客室乗務員は、安全性と保安は勿論のこと、乗客に対応する際に、微笑みを浮かべ親切な態度で対応することが求められます。その他にも、介護師、販売員、教師などが感情労働を実践しています。
岡部倫子氏は経営学の研究者で、フランスで航空MBAを、日本で博士を取得した経験を活かし、サービス企業と従業員の感情労働の研究を行っています。氏は、2018年に論文『組織における信頼の回復?心理的契約違反と感情労働の相互作用?』を発表しました。氏によると、心理的契約とは、個人が会社に勤務する際に一般的に結ばれる雇用契約とは異なり、従業員と組織間には相互義務があるとする従業員の信念です。言い換えると心理的契約とは暗黙の了解であり、書類などに記載されないため、しばしば従業員と会社は異なった見解を持つことがあります。従業員が会社の心理的契約違反を知覚する場合、会社から裏切られたような気持ちが起こり、会社に対する信頼度は低下することが実証されています。

会社に対する信頼感や対人関係における信頼感は、従業員が会社や組織で仕事をするうえで大変重要です。岡部氏によると、従業員が会社を信頼するということは、従業員のパフォーマンス、モチベーション、意思決定にも影響を与えます。従業員が心理的契約違反を知覚し、会社に対する信頼感が低下することは、従業員にとっても、企業の経営にとっても望ましい状態ではありません。会社と従業員が信頼関係を築き維持することは、会社にとっても従業員にとっても重要な問題です。
信頼が低下した状況を改善するために、岡部氏はアフェクティブ・デリバリーを行うことを提唱しています。「アフェクティブ・デリバリー」とは、顧客サービスの際に、意識的にポジティブな表現を用いることで、顧客の満足度を向上させる対応を指します。フェクティブ・デリバリーを行うことで得られる効用は、従業員と顧客との間に良いビジネス関係を築き、顧客満足度を向上させるのみならず、従業員が心理的契約違反を知覚した場合に誘発される、企業に対する信頼の低下を回復する働きがあると、岡部氏は述べています。氏は、フェクティブ・デリバリーにこのような効果がある理由を、従業員がポジティブな感情表現を積極的に用いると、サービスを受ける顧客にもポジティブな感情が芽生えるような土壌、あるいは雰囲気が生まれるためと述べています。このようなアフェクティブ・デリバリーを実践し、プラスの作用を得ることは、ますます重要となるでしょう。

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